「ある自殺者の手記」より 著者:秋田滋
な胃の腑は人間を駆って懐疑思想に導く。無信仰に誘う。人間の心のなかに暗い思想や死を念《ねが》う気持を胚
胎《はいたい》させるものだ。私はそうした事実をこれまでに幾度となく認めて来た。今夜食べたものが好く消化....
「或阿呆の一生」より 著者:芥川竜之介
びるやうに彼に話しかけた。「あの子はあなたに似てゐやしない?」「似てゐません。第一……」「だつて
胎教と云ふこともあるでせう。」 彼は黙つて目を反《そ》らした。が、彼の心の底にはかう云ふ彼女を絞め殺....
「闇中問答」より 著者:芥川竜之介
瓦は砕けない。」シエクスピイアや、ゲエテや近松門左衛門はいつか一度は滅びるであらう。しかれ彼等を生んだ
胎《たい》は、――大いなる民衆は滅びない。あらゆる芸術は形を変へても、必ずそのうちから生まれるであらう....