「或日の大石内蔵助」より 著者:芥川竜之介
》な記憶である。彼はその思い出の中に、長蝋燭《ながろうそく》の光を見、伽羅《きゃら》の油の匂を嗅ぎ、加
賀節《かがぶし》の三味線の音《ね》を聞いた。いや、今十内が云った里げしきの「さすが涙のばらばら袖に、こ....
「一番気乗のする時」より 著者:芥川竜之介
ぼけた京都に滞在してゐる間《あひだ》に二三度|時雨《しぐれ》にあつたことをおぼえてゐる。殊《こと》に下
賀茂《しもかも》の糺《ただす》の森であつた時雨《しぐれ》は、丁度《ちやうど》朝焼がしてゐるとすぐに時雨....