「良夜」より 著者:饗庭篁村
予も心付きてヤヤと愕きたり。「蘭の鉢を庭へ出せよ」と物柔らかに命じながら主公出で来られぬ。座を下りて平
伏すれば、「イヤ御遠慮あるな伯父ごとは莫逆《ばくぎゃく》の友なり、足下《そっか》の事は書中にて承知致し....
「墓」より 著者:秋田滋
ない光景を照らしだしていた。 墓番のヴァンサンは、やにわにその浅ましい男に躍りかかると、たちまち組み
伏せてしまい、両手を縛りあげて、その男を交番へ引ッ立てて行った。 その男は町の弁護士で、まだ年も若く....
「南洲手抄言志録」より 著者:秋月種樹
、萬物一體も情の推《すゐ》に外ならず。 〔評〕南洲、官軍を帥ゐて京師を發す。婢《ひ》あり別れを惜みて
伏水《ふしみ》に至る。兵士|環《めぐ》つて之を視《み》る。南洲輿中より之を招き、其背を拊《う》つて曰ふ....