「或阿呆の一生」より 著者:芥川竜之介
三十三 英雄 彼はヴオルテエルの家の窓からいつか高い山を見上げてゐた。氷河の懸つた山の上には禿
鷹《はげたか》の影さへ見えなかつた。が、背の低い露西亜《ロシア》人が一人、執拗《しつえう》に山道を登り....
「芋粥」より 著者:芥川竜之介
うな。」 五位の語《ことば》が完《をは》らない中に、誰かが、嘲笑《あざわら》つた。錆《さび》のある、
鷹揚《おうやう》な、武人らしい声である。五位は、猫背の首を挙げて、臆病らしく、その人の方を見た。声の主....
「英雄の器」より 著者:芥川竜之介
、ありません。それは実際、強いことは強いですな。」「ははあ。」 相手の顔は依然として微笑しながら、
鷹揚《おうよう》に頷《うなず》いた。幕営の外はしんとしている。遠くで二三度、角《かく》の音がしたほかは....