「拓本の話」より 著者:会津八一
ぬ、――すると壓力と濕氣の爲めに紙は石面の文字のあらゆる凸凹にまんべんなく喰ひ込む。それから少し時間を
措いて、紙の濕氣が少し乾くのを見計つて、饅頭のやうにふつくらと作つたタンポに、油墨か――これは其目的で....
「良夜」より 著者:饗庭篁村
を見知りし事は主公も知らねば、人口を憚《はば》かりてともに知らぬ顔にて居たり。 予はこれまでにて筆を
措《お》くべし。これよりして悦び悲しみ大憂愁大歓喜の事は老後を待ちて記すべし。これよりは予一人の関係に....
「墓」より 著者:秋田滋
なったのであります。いや、それ以上のものでありました。わたくしの生命そのものだったのであります。彼女を
措《お》いて、わたくしにはもうこの世に何一つ期待するものはありませんでした。わたくしは何ものも、何もの....