「或旧友へ送る手記」より 著者:芥川竜之介
今住んでゐるのは氷のやうに透《す》み渡つた、病的な神経の世界である。僕はゆうべ或売笑婦と一しよに彼女の
賃金(!)の話をし、しみじみ「生きる為に生きてゐる」我々人間の哀れさを感じた。若しみづから甘んじて永久....
「或恋愛小説」より 著者:芥川竜之介
胴を光らせている。鉢植えの椰子《やし》も葉を垂らしている。――と云うと多少気が利《き》いていますが、家
賃は案外安いのですよ。 主筆 そう云う説明は入《い》らないでしょう。少くとも小説の本文には。 保吉....
「馬の脚」より 著者:芥川竜之介
りではない。俺は今朝《けさ》九時前後に人力車《じんりきしゃ》に乗って会社へ行った。すると車夫は十二銭の
賃銭《ちんせん》をどうしても二十銭よこせと言う。おまけに俺をつかまえたなり、会社の門内へはいらせまいと....