「秋」より 著者:芥川竜之介
似た、一種清新な雰囲気《ふんゐき》を放散させてゐるやうであつた。殊に夏の休暇中、舞子《まひこ》まで足を
延した時には、同じ茶屋に来合せた夫の同僚たちに比べて見て、一層誇りがましいやうな心もちがせずにはゐられ....
「影」より 著者:芥川竜之介
なったら。」 陳は小銭《こぜに》を探りながら、女の指へ顋《あご》を向けた。そこにはすでに二年前から、
延べの金《きん》の両端《りょうはし》を抱《だ》かせた、約婚の指環が嵌《はま》っている。「じゃ今夜買っ....
「枯野抄」より 著者:芥川竜之介
ちま》ち正秀の哀慟の声に動かされて、何時か眼の中は涙で一ぱいになつた。が、彼が正秀の慟哭を不快に思ひ、
延《ひ》いては彼自身の涙をも潔《いさぎよ》しとしない事は、さつきと少しも変りはない。しかも涙は益《ます....