「狂人日記」より 著者:秋田滋
棒でも振り上げるようにそれを振り上げ、その刄の方で釣師の頭をひと撃ちで割った。頭から血が流れ出した。脳
漿が入り混った、薔薇色の血! それは緩やかに川の中に流れ込んだ。私は落著いてゆるゆるとそこを去った。誰....
「一番気乗のする時」より 著者:芥川竜之介
くなつてくる。ざわめいてくる。あすこが一寸《ちよつと》愉快だ。ざわめいて来て愉快になるといふことは、酸
漿提灯《ほほづきぢやうちん》がついてゐたり楽隊がゐたりするのも賑《にぎや》かでいいけれども、僕には、そ....
「世之助の話」より 著者:芥川竜之介
聞えたのだらう。私と向ひあつてゐた女房が、ちよいと耳の垢とりの方を見ると、すぐその眼を私にかへして、鉄
漿《かね》をつけた歯を見せながら、愛想よく微笑した。黒い、つやつやした歯が、ちらりと唇を洩れたかと思ふ....