「良夜」より 著者:饗庭篁村
す者なりとぞ。予がこの家に宿して八日目の事なりき。桜時なり、三社の祭りなり、賑い言わん方なしといえば、
携え来りし着替を出し、独り夕方より観音へ参詣し、夜に入り蕎麦店へ入りて京味を試み、ゆらりゆらりと立帰り....
「初雪」より 著者:秋田滋
事があってルーアンまで行ったので、帰りがけに、小さな脚炉《あしあぶり》をひとつ買って来た。彼はそれを「
携帯用の煖房だ」などと云って笑っていた。良人はそれがあれば妻にこののち寒い思いは死ぬまでさせずに済むと....
「鸚鵡」より 著者:芥川竜之介
なり。 家は地震にも潰《つぶ》れざりしかど、忽ち近隣に出火あり。孫娘と共に両国《りやうごく》に走る。
携《たづさ》へしものは鸚鵡《あうむ》の籠《かご》のみ。鸚鵡の名は五郎《ごらう》。背は鼠色、腹は桃色。芸....