「槍ヶ岳紀行」より 著者:芥川竜之介
軒に懸つてゐる岐阜提灯も、ありありと眼に見えるやうな気がした。しかし私を繞つてゐるものは、人煙を絶つた
谿谷であつた。私は妙な矛盾の感じを頭一ぱいに持ちながら、無愛想な案内者の尻について、漸く対岸を蔽つてゐ....
「霊界通信 小桜姫物語」より 著者:浅野和三郎
ものでございます。私達《わたくしたち》の辿《たど》る小路《こみち》のすぐ下《した》は薄暗《うすぐら》い
谿谷《たに》になって居《い》て、樹叢《しげみ》の中《なか》をくぐる水音《みずおと》が、かすかにさらさら....
「即興詩人」より 著者:アンデルセンハンス・クリスチャン
緑こまやかなる苔生ひたり。露けく茂りたる蔦《つた》の、おほいなる洞門にかゝりたるさまは、カラブリア州の
谿間《たにま》なる葡萄架《ぶだうだな》を見る心地す。洞の前數歩には、その頃いと寂しき一軒の家ありて、「....