「寡婦」より 著者:秋田滋
絶望的な身振りをして、わなわな顫える手を前にさし出した。 それから幾度も幾度も洟《はな》をかみ、眼を
拭いて、こう云うのだった。 「私は理由《わけ》は云わずに、婚約を取消してしまいました。そして、私は―....
「初雪」より 著者:秋田滋
込めなかったらしい。 だから彼女には返事が出来なかったのである。なんにも云わずに、ただ泪を一生懸命に
拭いた。なんと云えばいいのか、彼女には分らなかった。やっとの思いで、頻りに云い澱《よど》みながらこう云....
「浅草公園」より 著者:芥川竜之介
うに見えているのは前の池の一部らしい。少年はそこへ歩み寄り、がっかりしたように腰をかける。それから涙を
拭《ぬぐ》いはじめる。すると前の背むしが一人やはりベンチへ来て腰をかける。時々風に揺《ゆ》れる後《うし....