「あの頃の自分の事」より 著者:芥川竜之介
当時の我々は、まだこの情熱に富んだ氏の人格を、評価するだけの雅量に乏しかつた。だから我々は氏の小説を一
貫して、月光と性慾とを除いては、何ものも発見する事は出来なかつた。と同時に氏の感想や評論も、その怪しげ....
「芋粥」より 著者:芥川竜之介
て行かなければならなかつた。第一彼には着物らしい着物が一つもない。青鈍《あをにび》の水干と、同じ色の指
貫《さしぬき》とが一つづつあるのが、今ではそれが上白《うはじろ》んで、藍《あゐ》とも紺とも、つかないや....
「大久保湖州」より 著者:芥川竜之介
も、実際はそれ程の大人物に非ず、悪くいはるる人も、亦それ程の悪人にあらず、古今皆|然《しか》り。個人の
貫目《くわんめ》を量らんには、世評の封袋《ふうたい》を除くことを忘るべからず。 「智慧できて、気性の強....