「大正十二年九月一日の大震に際して」より 著者:芥川竜之介
乱墜《らんつゐ》するもの十余。大震漸く静まれば、風あり、面《おもて》を吹いて過ぐ。土臭|殆《ほとん》ど
噎《むせ》ばんと欲す。父と屋《をく》の内外を見れば、被害は屋瓦の墜《お》ちたると石燈籠《いしどうろう》....
「元日の釣」より 著者:石井研堂
朝飯とお弁当は、お冷でも善い、菜が無いなら、漬物だけでも苦しうない、といふ工合で、食ぱんのぽそ/\も、
噎《むせ》ツたいと思はず、餌を撮《つま》んだ手で、お結《むす》びを持ツても、汚いとせず、極《ごく》構は....
「悲しき玩具」より 著者:石川啄木
と思ふ本のこと、 表紙のことなど、 妻に語れる。 胸いたみ、 春の霙《みぞれ》の降る日なり。 薬に
噎《む》せて、伏《ふ》して眼をとづ。 あたらしきサラドの色の うれしさに、 箸《はし》をとりあげて見....