「拓本の話」より 著者:会津八一
つの短所であらうが、寫眞が實物より小さくなる場合が多いのに、拓本はいつも實物大で、しかも實物とわづかに
濡れ紙一重を隔てたばかりの親しみの深い印象を留めて居る。拓本が持つ此強い聯想は到底寫眞の企て及ぶところ....
「良夜」より 著者:饗庭篁村
ちらめく火影櫓行く跡に白く引く波、見る者として皆な暑さを忘るる物なるに、まして川風の肌に心地よき、汗に
濡れたる単衣《ひとえ》をここに始めて乾かしたり。紅蓮《ぐれん》の魚の仏手に掏《すく》い出されて無熱池に....
「寡婦」より 著者:秋田滋
足を踏みいれて、雨のつぶてに打たれた大木のしたにいると、黴《かび》くさい匂いや、降った雨水、びッしょり
濡れた草、湿った地面からあがって来る水分がからだを包んでしまう。射手たちはこのひッきりなしに襲ってくる....