「湖南の扇」より 著者:芥川竜之介
を下りざまにふり返りながら、後《うしろ》にいる苦力《クウリイ》を擲《なぐ》ったりしていた。それは長江を
遡《さかのぼ》って来た僕には決して珍しい見ものではなかった。けれども亦格別見慣れたことを長江に感謝した....
「素戔嗚尊」より 著者:芥川竜之介
、はてしない漂泊《ひょうはく》を続けて来た。そうしてその七年目の夏、彼は出雲《いずも》の簸《ひ》の川を
遡《さかのぼ》って行く、一艘《いっそう》の独木舟《まるきぶね》の帆の下に、蘆《あし》の深い両岸を眺めて....
「人及び芸術家としての薄田泣菫氏」より 著者:芥川竜之介
歎を新にした。試みに誰でもそれ等の中の一篇――たとへば「天馳使の歌」を読んで見るが好い。天地開闢の昔に
遡つたミルトン風の幻想は如何にも雄大に描かれてゐる。日本の詩壇は薄田氏以来一篇の叙事詩をも生んでゐない....