「秋」より 著者:芥川竜之介
も信子は気の毒さうに、時々夫の顔色を窺《うかが》つて見る事があつた。が、彼は何も知らず、近頃延した髭を
噛みながら、何時もより余程快活に、「これで子供でも出来て見ると――」なぞと、考へ考へ話してゐた。 す....
「或敵打の話」より 著者:芥川竜之介
、彼自身が命を墜《おと》したら、やはり永年の艱難は水泡に帰すのも同然であった。彼はついに枕《まくら》を
噛《か》みながら、彼自身の快癒を祈ると共に、併せて敵《かたき》瀬沼兵衛《せぬまひょうえ》の快癒も祈らざ....
「或恋愛小説」より 著者:芥川竜之介
ただ夫は達雄の来た時に冷かに訪問を謝絶《しゃぜつ》するのです。達雄は黙然《もくねん》と唇《くちびる》を
噛んだまま、ピアノばかり見つめている。妙子は戸の外に佇《たたず》んだなりじっと忍び泣きをこらえている。....